「グリーン化は、今を生きる我々の責任」
モンゴル初のグリーンボンドがどのように気候変動に配慮した成長を支えているか~ひとりのCEOが示す道筋

重さ26.8トンの飲料製造装置「コンビブロック」がうなりを上げると、ウランバートル郊外に位置する飲料会社TSKの工場は活気に包まれる。これまで混合から調合、そして揚水まで手作業だった工程が、新しい装置によって進められていく。作業員はL字型の装置を囲むように配置され、デジタル制御盤のオペレーターがネオン色のボタンを操作する。少し離れたところから様子を見守るのは、工場のオーナーのエルデネバヤル・ジャミンセンギーだ。
「コンビブロックを購入するのは長年の夢だった。中国とヨーロッパで飲料工場の視察中に出会い、モンゴルでも同様の省エネと生産性向上を実現したかった」と彼は話す。この装置ひとつで7つの工程が完結し、生産の迅速化と大幅な省エネが可能となる。

TSKは2023年9月にコンビブロックを調達したが、事業拡大の一環として計画していた22種類の新飲料製品を試作する生産ラインの増設に向け、さらに多額の投資を必要としていた。モンゴルのハーン銀行がIFCの支援を受けてグリーンボンドを発行し、調達資金をもとにグリーンローンを顧客に提供し始めたとき、TSKはこれをチャンスと見た。TSKは無事、ハーン銀行から融資を得て、今秋から新飲料の生産を開始した。新製品のフレーバーウォーターで使われているミントとベリー、キュウリは、すべて地元の生産者から調達されたものだ。
新しい生産ラインも稼働し始め、コンビブロックによって同社の年間生産量は1,000万本から1,850万本と85パーセント増加し、ボトル一本生産量あたりのエネルギー消費量も23パーセント減少した。「企業の社会的責任(CSR)の観点からも、グリーン化を進め、より効率的なテクノロジーを使っていかなければならない。時間とエネルギーは大幅に節約できた。目標は手の届くところまできている」とエルデネバヤルは話す。

グリーンファイナンスは優先事項
モンゴル最大の商業銀行であるハーン銀行は、グリーンローンを通じ、TSKをはじめとするモンゴルの企業のエネルギー効率に優れたオペレーションへの移行を支援している。同行のムンクトゥヤ・レンツェンバットCEOによれば、持続可能な経済を推進するため、2023年に同国初となるグリーンボンドを同行が発行し、調達資金をもとに今回のような気候変動に配慮したプロジェクトを対象に100件を超える融資を行ってきた。
ハーン銀行CEOのムンクトゥヤ・レンツェンバット氏
ハーン銀行CEOのムンクトゥヤ・レンツェンバット氏
「グリーンファイナンスは優先事項だ」と彼女は話す。ウランバートルの深刻な大気汚染に加えて、気温上昇、雨量減少、モンゴル全土での洪水の増加を指摘しつつ、「これらをはじめとする気候変動の弊害に対して早急な対応が必要で、サステナビリティを優先する顧客への長期融資は、今後進むべき道のひとつである」と語る。
IFCは、ハーン銀行の総額6,000万ドル期間5年の債券発行に際し1,500万ドルを投資し、同行の気候変動関連融資ポートフォリオの拡大を支援するほか、2030年までに温室効果ガス排出量の22.7パーセント削減を目指すモンゴルのコミットメントを後押ししていく。今回のグリーンボンドへの投資に先立ち、IFCはモンゴル政府のアドバイザーとしてグリーンボンド発行の規制環境を整えるために助言を提供し、ハーン銀行はIFCの支援を受けてグリーンボンド・フレームワークを策定した。
気候変動に配慮した成長
エルデネバヤルが、2008年にTSKを創業したのは、「モンゴル人が国産品を購入できるようにしたい」という思いがあったからだ。それ以降も会社は成長を続け、最近では2019年に工場を2,000平方メートルから3,000平方メートルに拡大し、2020年には敷地内に2つの新研究所を設け、自社製品が国家規格に適合していることを保証できるようになった。
これまでにも、TSKはエネルギーを節約するために多大な措置を講じている。床下にパイプを設置して蒸気を回収・貯蔵して水に変換し、工場の空調システムへの給電に再利用するなどしてきた。
TSKで水やジュース、ソーダの新製品の計画が進められる中、事業拡大の要となる生産性向上をエネルギー消費量やコストの増加を伴わずに実現するため、エルデネバヤルは奔走した。コンビブロックが選ばれた理由のひとつはそこにあった、と彼は思い返す。それまで大量にエネルギーを消費していた機械3台は不要となり、作業員は水を工場まで人力で運ぶ必要もなくなった。
TSKが以前から省エネに注力していたことも、ハーン銀行のグリーンローンとマッチした理由のひとつ、と同銀行のグリーンファイナンス・スペシャリストであるジャフクラン・オトゴンスレン氏は話す。「我々は、TSKのようにすでに機材を調達・設置済みであり、ローンをすぐに有効活用できるような顧客と取引を進めてきた。」
中小企業が労働人口の約70パーセントを雇用しており、GDPの17.8パーセントを占めるモンゴルにおいて、TSKのような地元企業への支援は重要だ。
生産性の向上に伴い、TSKは75名の従業員数をいずれは倍増する必要があるだろうとエルデネバヤルCEOは話す。
生産性の向上に伴い、TSKは75名の従業員数をいずれは倍増する必要があるだろうとエルデネバヤルCEOは話す。
しかし、中小企業にとって資金調達のハードルは高い、とIFCの中国及びモンゴル担当カントリー・マネージャーであるジャック・シディクは指摘する。「我々はグリーンボンドやソーシャルボンドのような革新的な手段を取り入れることで、モンゴルの気候変動目標と開発目標の達成に必要な投資の呼び込みを支援してきた」と続ける。


モンゴルのグリーン化に貢献していく
コンビブロックが稼働を始め、TSKは毎月エネルギーを大幅に節約できるようになった、とエルデネバヤルは語る。ウランバートルでエネルギー不足によって、工場が生産に必要な電気、暖房、蒸気を確保するのが困難だったころを思い返しつつ、「あらゆるところでエネルギー節約が必要だ」と訴える。
中小企業はモンゴルの労働人口の約70パーセントを雇用し、GDPの17.8パーセントを占めるが、資金調達ではいまだ困難を抱えている。
中小企業はモンゴルの労働人口の約70パーセントを雇用し、GDPの17.8パーセントを占めるが、資金調達ではいまだ困難を抱えている。
生産スピードは毎分200ボトルに達し、古い設備だった頃の毎分33ボトルから大きく伸びた。TSKは75名の従業員数をいずれは倍増する必要があり、そのころには地域にわたって製品を輸出できるようになっているだろう、とエルデネバヤルは話す。TSKはすでにモンゴル国内で2,000以上のショップ、レストラン、食料雑貨店、市場に製品を卸しているが、国外に輸出することで、モンゴルが確かな製造能力を備えており、「責任ある成長」のノウハウを持つ国であると世界に示せる、とエルデネバヤルは信じている。
「そうやって我々はモンゴルのグリーン化に貢献していく」と彼は言う。
IFCはアンカー投資家としてモンゴル初のグリーンボンドに投資し、オランダの起業開発銀行であるFMOからの3,500万ドル、マイクロベスト・キャピタルマネジメントからの1,000万ドルの合計4,500万ドルを海外投資家から呼び込むのに貢献した。また、IFCはモンゴルが商業銀行向けの環境・社会リスクマネジメント要件を策定・採択する際も支援を行った。IFCは、包括的信託基金(CJTF)を通じた日本政府の支援のもと、モンゴルのグリーンボンド規制及びガイドラインに関する文書の策定を支援し、現地市場でのグリーンボンドの発行を実現した。
2024年12月発行