ウクライナの復興に向けて

ロシアによるウクライナ侵攻の開始から2年以上が経過した今、ウクライナ経済を正常な軌道に戻すには、継続的な改革案と人的資本の回復、民間セクターとの強力な連携、そして革新的技術が必要となってくる。ビデオ:IFC

ロシアによるウクライナ侵攻の開始から2年以上が経過した今、ウクライナ経済を正常な軌道に戻すには、継続的な改革案と人的資本の回復、民間セクターとの強力な連携、そして革新的技術が必要となってくる。ビデオ:IFC

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ウクライナ国旗の色に塗られたキーウにある家の玄関。 写真:マルヤン・ブラン/Unsplash

ウクライナ国旗の色に塗られたキーウにある家の玄関。 写真:マルヤン・ブラン/Unsplash

ロシアによる侵攻後2年以上にわたり、ウクライナの経済回復において民間セクターが決定的かつ強力な役割を果たしている。ウクライナの経済産出高は戦前に比べればまだかなり低いが、2023年の経済成長率は予想を上回った。

ウクライナ経済が崩壊を回避できた背景には、ウクライナ企業の強靭性と力強い国際支援がある。今回の侵攻でウクライナ企業の85%近くが生産活動に影響を受けたにもかかわらず、2022年初めに操業を停止した企業の80%以上が6ヵ月以内に事業を部分的であれ再開することができた。

ウクライナ経済を正常な軌道に戻すには、継続的な改革案と人的資本の回復、民間セクターとの強力な連携、そして革新的技術が必要となってくる。ベルリンで今週開催されるウクライナ復興会議では、世界各国のリーダーがこうした議題について話し合い、ウクライナのより良い再建方法を探っていく。

「ウクライナの経済再生には強固な民間セクターがカギとなる。ウクライナ国民の強靭さや技術革新、国際機関の支援もあり、民間セクターは厳しい状況を耐えて雇用を維持し、納税をしてきた。民間セクターが中期的に復興において重要な役割を果たすだろう。IFCは現在進めているアドバイザリー支援、そして今週ベルリンで発表するインフラ投資を通じて支援していく」  
リサ・ケストナー IFCウクライナ及びモルドバ担当地域マネージャー

ウクライナでは、現在進行中の土地改革や、市場の透明性を高める「エネルギー卸売市場の健全性と透明性に関する規制」(REMIT)の導入を含むエネルギー分野の抜本的改革、そして再生可能エネルギー分野に不可欠なグリーン・トランスフォーメーション法の整備などが進められてきた。民間主導の成長と持続可能性を促進するこれら一連の改革は、ウクライナの投資先としての魅力をより高めている。

しかし、進展が見られる一方、まだまだ変革は必要である。法の支配の強化や司法改革、競争を促進するほか、国家の役割を再定義し、重要分野への民間セクターの参画を認めていく必要がある。

「ウクライナの強靭性を保つために、IFCは常に安定したパートナーとして民間セクターの活動維持を支えてきた」
リサ・ケストナー IFCウクライナ及びモルドバ担当地域マネージャー

ウクライナが欧州連合(EU)による復興支援の枠組みである「ウクライナ・ファシリティ」から60億ユーロのつなぎ融資を受けたことで、今年5月には同国への投資家の信頼感は高まりを見せた。

「ロシアの同国侵攻によってIFCとウクライナの長年にわたる投資関係が揺らぐことはなかった。2022年2月以降もIFCは常に安定したパートナーであり続け、ウクライナの強靭性を保つ上で民間セクターの活動を維持することの重要性を訴えかけてきた」とIFCのウクライナ及びモルドバ担当地域マネージャーであるリサ・ケストナーは語る。

IFCはこれまで一度もウクライナへの投融資を中断することなく続けている。侵攻開始以来、設備投資などの長期融資にシフトしつつ、同国の民間セクターを支援するために資金動員分を含め14億ドルの資金を提供してきた。

IFCは今後1年間にわたり、欧州委員会や英国、オランダ、スイス、米国、カナダなどを含むドナー・パートナーの支援も受けつつ、さらに14億ドルをウクライナの民間セクターに投じる予定だ。

「これまで、世界銀行グループは、ウクライナに対して財政支援や民間セクターの直接支援を含むさまざまな枠組みを通じ、総額約420億ドルにおよぶ援助資金を提供してきた。IFCは、エネルギーや物流、交通インフラ、農業、建築資材、小規模企業などの重要なニーズを持つセクターにおいて、今後も支援を進めていく」とケストナーは話す。

ウクライナの経済が戦前の水準に戻るにはまだ何年もかかるとされる。そのような中、IFCは同国の経済回復と復興努力を加速させるために、より多くの投資を呼び込むという極めて重要な役割を担っている。

IFCは他の国際開発金融機関との協力関係を強化し、より効果的に連携していく。そうしなければ、ウクライナの直面する喫緊の課題にうまく対処することはできないからだ。

IFCは、ウクライナが経済の勢いを保ち、民間セクターを強化できるように支援を進めている。ここからは、同国の復興と成長に不可欠となる4つの経済セクターについて詳しく見ていきたい。

テック産業はウクライナ全土で最大30万人を雇用し、いまや70億ドル以上の所得を生み出している。写真:Unsplash

テック産業はウクライナ全土で最大30万人を雇用し、いまや70億ドル以上の所得を生み出している。写真:Unsplash

1.

テックセクターの基盤強化

ロシアによる侵攻という激動の中でも、ウクライナのテクノロジーセクターは驚異的な強靭性を見せた。2022 年の年初数ヶ月の混乱期に、31億ドルを稼ぎ出した。そのほとんどはコンピューターエンジニアやソフトウェア開発者によるものだ。

同年、ウクライナの輸出産業で唯一成長を見せたのもテクノロジーセクターだ。今やウクライナ全土で最大30万人を雇用する同セクターは70億ドル以上の所得を生み出し、2023年比で5%の伸びを見せている。

ウクライナのテクノロジーセクターは驚異的な強靭性を見せた。

しかし、ウクライナのテクノロジーセクターが今後も安定したサービスを提供し、成長を遂げていくには、資本へのアクセスを改善していく必要がある。そのため、IFCは、企業の顧客体験の変革を専門とするITサービスとコンサルティングを手掛けるグローバル企業のミラテック社(Miratech)、そしてウクライナ人が設立したグローバルに展開するオンライン語学学習プラットフォームのプレプライ社(Preply)にそれぞれ500万ドルを投資し、同セクターの支援を拡大している。

これらの投資案件は、IFCによるホライズンキャピタル(Horizon Capital)への6,000万ドルの画期的な投資に起因する。ウクライナに拠点を置く同社は、テクノロジーとサービス会社に特化したエクイティ・ファンドであり、IFCとは長年パートナーとして協力してきた。この投資はIFCにとってロシアによる侵攻後初となるウクライナでの案件であり、IFCの投資がさらなる7,900万ドルの資金動員につながった。

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ロシアによるウクライナの侵攻後、ウクライナのテクノロジーセクターは唯一成長した輸出産業となった。写真:アレックス・コトリアスキー/Unsplash

ロシアによるウクライナの侵攻後、ウクライナのテクノロジーセクターは唯一成長した輸出産業となった。写真:アレックス・コトリアスキー/Unsplash

キーウで英国の路上芸術家バンクシーが描いた壁画は、ホライズンの投資先でありウクライナを拠点とするエージェックス・セキュリティ社(Ajax Security)が開発した高性能セキュリティシステムによって守られている。写真: Unsplash

キーウで英国の路上芸術家バンクシーが描いた壁画は、ホライズンの投資先でありウクライナを拠点とするエージェックス・セキュリティ社(Ajax Security)が開発した高性能セキュリティシステムによって守られている。写真: Unsplash

a field of wheat under a cloudy blue sky

侵攻前、農業はウクライナの輸出の30%以上を占め、GDPへの貢献は8%以上に及んだ。写真:オレクサンドル K/Unsplash

侵攻前、農業はウクライナの輸出の30%以上を占め、GDPへの貢献は8%以上に及んだ。写真:オレクサンドル K/Unsplash

2.

農業セクターを立て直す

ロシアによる侵攻でウクライナの農業セクターは壊滅的なダメージを受けた。かつてヨーロッパの穀倉地帯と呼ばれたウクライナは、現在も穀物や油糧種子の世界的な主要供給国であるが、生産量の大幅な減少に苦しんでいる。

侵攻前、農業はウクライナの輸出の30%以上を占め、GDPへの貢献は8%以上に及んだ。2023年12月時点で見ると、ウクライナの農業生産者の被害額は約103億ドルに及び、損失額は698億ドルにのぼる。

しかし、こうした状況も変わりつつある。

ウクライナの耕作面積が減少し、海上貿易ルートが大きく寸断されたにもかかわらず、ウクライナの農産物輸出は2024年1月に侵攻前の水準まで戻っている。黒海の穀物回廊の再開で約1億トンの貨物の輸出が可能になり、2022年の数値を11万トン以上上回った。他方、金額ベースでは20%近く減少した。

かつてヨーロッパの穀倉地帯と呼ばれたウクライナは、現在も穀物や油糧種子の世界的な主要供給国であるが、生産量の大幅な減少に苦しんでいる。

黒海穀物イニシアティブが失効した今、ルーマニアと国境を接するドナウ川沿いのウクライナの港は、穀物やその他の商品のウクライナ最大の代替輸出ルートとして、今後も引き続きその機能を果たしていくことになる。

IFCは直接投資以外でも、スイス経済省経済事務局(SECO)と提携し、農作物受領書を融資の担保として取り扱う支援プログラムを2015年以降から実施している。このアドバイザリープログラムによって、ウクライナの農家は侵攻後に融資された2,600万ドルを含め、累計で23億ドル以上の資金調達が可能となった。

ウクライナ議会で2月に農業文書に関する新法が可決されたことを受け、IFCは現在、より安価で迅速、かつ使いやすい農作物電子受領書の導入に向け、政府との連携を進めている。

brown grass field during daytime

ロシアによる侵攻開始から2年以上が経過した今も、ウクライナはヨーロッパの穀倉地帯として穀物や油糧種子の世界的な主要供給国であり続けている。写真:キリル・レブネッツ /Unsplash

ロシアによる侵攻開始から2年以上が経過した今も、ウクライナはヨーロッパの穀倉地帯として穀物や油糧種子の世界的な主要供給国であり続けている。写真:キリル・レブネッツ /Unsplash

IFC は現在、より安価で迅速、かつ使いやすい農作物電子受領書の導入に向け、政府との連携を進めている。写真:Unsplash

IFC は現在、より安価で迅速、かつ使いやすい農作物電子受領書の導入に向け、政府との連携を進めている。写真:Unsplash

ロシアによるウクライナ侵攻以降、ウクライナのエネルギーセクターは火力発電容量の80%、水力発電容量の35%を喪失した。写真:Unsplash

ロシアによるウクライナ侵攻以降、ウクライナのエネルギーセクターは火力発電容量の80%、水力発電容量の35%を喪失した。写真:Unsplash

3.

エネルギーセクターに明るさを取り戻す

ウクライナのエネルギーセクターはロシアによる侵攻で甚大な被害を受け、同国の火力発電容量の80%、水力発電容量の35%を喪失した。最新の被害・需要調査(RDNA3)によると、2023年末までの同部門の復興需要は470億ドルと試算されている。

IFCの「民間セクターにおける投資機会」報告書の分析によると、民間セクターは改革と政策介入によってウクライナの復興需要の三分の一以上に対応が可能で、さらには今後10年間で2,820億ドルにのぼる投資機会を創出するとされる。エネルギーセクターではこれらの投資機会が1,000億ドル近くに達すると見込まれる。

民間投資家にとっては再生可能エネルギー分野の支援が最も高い可能性を秘めている。そのためには発電源証明や再生可能エネルギーの入札制度、再生可能エネルギーの民間発電業者による市場価格での電力販売契約などに関する措置の迅速な導入といった規制面の改善への取組みが前提条件となってくる。

また、EUクリーン・エネルギーパッケージを通じた欧州連合とのさらなる整合によって、卸売市場と小売市場の両方で自由な価格形成も可能となってくる。

民間セクターは復興需要の最大76%に対応できる可能性がある。

IFCはエネルギーセクターで現在、短期的な投資機会をとらえることに注力している。現行法のもとで代替的なビジネスモデルを促進しつつ、主要な法改正の採択を前提に中期的に必要とされる規模の拡大に備えて準備を進めている。

IFCと国際復興開発銀行(IBRD)は、大規模で競争力のある料金体系の系統連系型再生可能エネルギー・プロジェクトの市場を創出することを目的に、RENEWウクライナ・イニシアティブを設立した。2040年までに20ギガワット分の風力・太陽光発電システム、そして5ギガワット分の蓄電システムの増設を目指している。

被害を受けたウクライナのエネルギーセクターの支援において、民間投資家にとって最も高い可能性を秘めているのは再生可能エネルギー分野である。写真:Unsplash

被害を受けたウクライナのエネルギーセクターの支援において、民間投資家にとって最も高い可能性を秘めているのは再生可能エネルギー分野である。写真:Unsplash

wind turbines on snowy mountain under clear blue sky during daytime

適切な改革が実施されれば、ウクライナのエネルギーセクターへの民間投資は22億ドルから約360億ドルへと16倍増加する可能性がある。写真:ジェイソン・マブロマティスUnsplash

適切な改革が実施されれば、ウクライナのエネルギーセクターへの民間投資は22億ドルから約360億ドルへと16倍増加する可能性がある。写真:ジェイソン・マブロマティスUnsplash

a car parked in front of a tall building

ウクライナの銀行はロシアの侵攻による金融ショックにも耐え抜いてきたほか、比較的収益性が高く、流動性があり、自己資本も十分にある。写真:ミルハシム・バガリエフUnsplash

ウクライナの銀行はロシアの侵攻による金融ショックにも耐え抜いてきたほか、比較的収益性が高く、流動性があり、自己資本も十分にある。写真:ミルハシム・バガリエフUnsplash

4. ウクライナの銀行を強化する

ウクライナが長期に安定した復興を実現するためには、流動性の高い、強靭な金融セクターが前提条件になる。 

ウクライナの銀行はロシアの侵攻による金融ショックにも耐え抜き、比較的収益性が高く、流動性があり、自己資本も十分にある。同セクターにとって目下の課題は、信頼性の高いリスク軽減が可能な金融商品などを通じた融資の拡大である。

金融セクターでは、IFCはウクライナの金融機関による中小企業への融資拡大を支援しており、金融包摂に関する問題に対処できるよう同セクターの発展を促している。

ウクライナの銀行はロシアの侵攻による金融ショックにも耐え抜いてきた。

IFCは貿易金融取引の支援として3億4千万ドル以上の保証を提供し、中小企業向けに2億ドルの融資が可能となる、リスク軽減を図るための1億ドルのリスク共有ファシリティも設立した。

金融セクターへの投融資による支援に加え、IFCはウクライナで銀行の近代化と金融アクセスの向上を支援する優れたアドバイザリープログラムを展開している。

IFCは規制の不整合に対処するため、フィンテック規制の枠組み作りを支援しており、革新的な金融ソリューションと利用しやすいデジタルサービスを生み出すエコシステムづくりを進めている。

さらに、IFCはデジタルデータ回廊(DDC)と呼ばれるイニシアティブを立ち上げ、ウクライナの難民がクレジットカードやローン、その他のサービスに簡単にアクセスできるよう支援している。すでにDDCは10カ国で導入されており、ポーランド、ジョージア、モルドバ、ラトビアなどの国の金融機関とウクライナの間で国境を越えた電子データ交換が行われている。

キーウにあるウクライナ国立銀行。写真:Shutterstock

キーウにあるウクライナ国立銀行。写真:Shutterstock

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IFC はフィンテック規制の枠組み作りを支援し、革新的な金融ソリューションと利用しやすいデジタルサービスの提供を目指している。写真:ネイサン・ドゥムラオUnsplash

IFC はフィンテック規制の枠組み作りを支援し、革新的な金融ソリューションと利用しやすいデジタルサービスの提供を目指している。写真:ネイサン・ドゥムラオUnsplash