ゼロカーボン建築物を実現するための7つのステップ

メキシコでのプロジェクトに見る、建築物のグリーン化に必要なステップ

メキシコシティの高層ビルの空中写真

メキシコシティの高層ビルの空中写真

文・構成・制作:イナエ・リヴェラス
写真・動画撮影:エドゥアルド・デ・ラ・セルダ

日々、世界のどこかで「ネットゼロ」宣言が行われている。二酸化炭素排出量の大幅削減に迫られる中、多国籍企業や小規模企業、デベロッパー、小さい町から大都市、そして国までもが同じ問いの答えを探している。  

「どうやってネットゼロを実現するのか。」

まず初めに取り掛かるべきは建築物だ。世界の電力消費量の半分以上は、ビルの冷暖房や照明に消費される。これに建築資材や建設作業を加えると、エネルギーに関連した温室効果ガス排出量の3分の1以上を建築物が占める。その極めて大きな影響を踏まえ、専門家は、建築物の建設方法や運営手法を変えない限り、気候変動がもたらす危機に立ち向かうことはできないと主張している。

世界中の多くのデベロッパーやビル所有者がその呼びかけに応え、規制や業界水準を超えて、カーボン・ニュートラルな新たなビル建設や改築による脱炭素化を進めている。ゼロカーボンビルでは、エネルギーの浪費や水の使用量の削減、消費エネルギー分を自家発電でまかなったり、再生可能エネルギーを電源として利用する。 

このようにビルのあり方を見直すことは野心的な試みのように見えるかもしれない。しかし、メキシコのレオンで建築家として活躍するラモン・ロペスは、果敢にこれに挑んだ。 

オフィスBJXのビルは、ラテンアメリカ初のEDGEゼロカーボン認証を受けた。

オフィスBJXのビルは、ラテンアメリカ初のEDGEゼロカーボン認証を受けた。

メキシコ・レオンにあるオフィスBJXのビルの空中写真

メキシコ・レオンにあるオフィスBJXのビルの空中写真

オフィス設計・家具販売を手掛けるオフィス・アーキテクトゥラ・モビリアリオ(Ufficio Arquitectura & Mobiliario)の代表を務めるロペス氏は、より広い事務所への移転を考えていた時に、築15年のある住宅を見つけた。この住宅を購入した際に、ロペス氏は改築にあたって建物の建築面積を増やせないなど、現地の建築要件があることは知っていた。

しかし改築作業が始まると、ロペス氏は、もう少しお金をかければ、要件を満たしつつ、より環境に配慮した建築物にすることができ、追加投資分以上の利点があることに気がついた。

「最初にかかる資金の差はごく僅かだ。たとえば、太陽光パネルを定められている最低限の数より多く設置すれば、将来にわたり節約できる。窓をより多く設置すれば空気循環が良くなり、エネルギー消費量も減らすことができる」とロペス氏は語る。

同時に、これは彼の会社が販売を手掛けるブランドの価値観と事業内容の整合性を図る良い機会になると捉えていた。同社は、ハーマン・ミラー(Herman Miller)といったオフィス家具メーカーを取り扱う現地代理店だ。ハーマン・ミラーは、米国グリーンビルディング協議会(U.S. Green Building Council)の創立メンバーであり、1990年代に建設された同社のグリーンハウスは、持続可能な建築慣行の先駆け的存在となった革新的な施設として知られている。

こうして手を加えていくと、グリーンビルディング認証の取得に必要な複数の要件をほぼ満たしていることに気づき、ロペス氏は認証取得を進めることにした。第一に、IFCが立ち上げたグリーンビルディング認証制度の一つであるEDGE(効率改善 のための優れた設計)のアドバンス認証の取得に向け、必要な手続きを進めた。同制度のプラットフォームを使うことで、事業主は最も費用対効果の高いグリーン建設手法を特定することができる。約1年後、同社のビルは、ラテンアメリカで初、世界でも3番目となるEDGEのゼロ・カーボン認証を取得した。  

以下に、600平方メートルの住宅をネットゼロのオフィスビルに生まれ変わらせるためにロペス氏が採ったアプローチを段階的に紹介する。

ステップ1

自然換気システム

適切に設計された自然換気システムは、室内に新鮮な空気を取り込むと同時に室内温度を下げ、建物内の快適性を向上させるだけでなく、空調の必要性や維持費を削減することができる。これには、部屋面積と開口部の数や位置といった要素が大きく関連する。

ここで取り付けられてようなシーリングファンは、空気の流れを作り湿気の除去を促すことから、より快適な空間を作ることができる。寒い時には、部屋の上部に滞りがちな暖かい空気を部屋中に循環させることもできる。

ステップ2

反射率に着目

太陽は重要な光源だが、熱源でもある。自然光を最大限に活かし不要な熱伝導を最小化するためには、照明と換気、そして外壁部分では窓と壁との適切なバランスを取ることが重要だ。

同ビルを認証した グリーン・ビジネス・サーティフィケーション社のアソシエイト・ディクレターであるディーパック・グラティ氏は、オフィスBJXの壁に対し窓の比率が比較的高かったことから、窓ガラスにLow-Eと呼ばれる特殊なコーティングを施したと説明する。

極めて薄い金属膜または酸化金属をガラスの表面に吹き付けるLow-Eコーティングは、熱伝導を抑える効果がある。メキシコのような温暖な気候では、これにより建物の内部の温度を低く保つことが可能となる。

建築物によっては、コーティングを2回もしくは3回行うことで、非熱伝導の効果をさらに高めることができる。

壁面に反射塗料または反射タイルを使うことで、空調が効いた空間の冷房負荷を下げ、さらに空調していない空間の快適性も高めることができる。都市部では、緑地などの地表面被覆が減少し、熱を溜め込む人工被覆域が拡大したことで、気温や公害レベルが上昇し、熱による疾病が増加する「ヒートアイランド現象」が深刻化している。そんな中、表面温度を下げることは、ヒートアイランド現象の緩和にとっても重要となる。

白をはじめとする淡色がオフィスBJXでは使われているが、これは、反射率が最大化されることから温暖な気候では理想的だと言える。

ステップ3

省エネタイプの電球

一般的な白熱電球と比べLED電球は、少ない消費電力でより多くの光を発光させる。オフィスBJXでは、熱効率の高いLED電球を使い、照明にかかる消費電力量を減らしている。発熱しない電球を使うことで、室内の温度を低く保つことができ、白熱電球より寿命が長いことも注目に値する。

照明用の人感センサーまたは自然光が不十分な場合のみに点灯する光電センサーといった照明制御システムもまた、エネルギー消費量の削減に効果的だ。

 

ステップ4

節水型の水栓

建物は、トイレ、冷暖房装置、植栽などで非常に多くの水を使う。

しかし、流し台に節水型の水栓を取り付けたり、節水タイプのトイレを設置することで、水の使用量を削減することができる。エアレーターやシャットオフバルブなどを蛇口に取り付け、機能性を損なうことなく水の消費量を抑えることができる。同様に、デュアルフラッシュトイレ(2種類の水洗量ボタンがある水洗式トイレ))を設置し、水量を減らすこともできる。

欧州投資銀行のエネルギー効率化及びエネルギー・アドバイザリー部門で欧州連合内外でのグリーンビルディングへの投資を担当するパオラ・メンデス氏は「15年前、人々はエネルギーは限りある資源であることに気づいた。そして今、水もまた限りある資源だと気づき始めた」と指摘する。

水を再処理し、家庭やオフィスに届けるにもエネルギーを使うことから、節水は省エネでもある。

「人々は水もまた限りある資源だと気づき始めた」

パオラ・メンデス、欧州投資銀行

ステップ5

自家発電

オフィスBJXでは、通常、電力会社から購入する石炭や天然ガスといった化石燃料から作られるエネルギーに代わり、ビルの屋上に設置された18枚の太陽光パネルが発電する再生可能エネルギーで全ての消費電力を賄っている。

ロペス氏は、太陽光パネルへの総額約1万ドルの投資は、4年で回収できると期待する。太陽光パネルを設置して以降、請求される料金は、最低額の送電網への接続費のみだ。パネルの保証期間は15年であることから、長期的に節約が可能だとロペス氏は指摘する。

太陽光パネルの設置を後押しする規制と技術の進展により、設置コストは過去10年で約3分の2減少した。太陽光発電システムの種類も現在は多様化しており、異なる技術で様々な効率化が可能になっている。

パネル設置に必要な広いスペースが確保できない場合、他の場所で作られた再生可能エネルギーを電力グリッドから購入することも可能だ。場合によっては、自家発電より利用しやすく、価格も手頃になる場合もある。

ステップ6

低炭素型の資材

建材に関連したエネルギーも、建物の二酸化炭素総排出量の重要な要素だ。建物の建設や維持に必要な資材の抽出や製造(資材の原料抽出、加工、輸送を含む)に要するエネルギーを、エンボディド・エネルギーと呼ぶ。

製造に要するエネルギーが少ない資材を選択することに加え、既存の資材を再利用することもできる。床スラブ、屋根構体、壁材、床材、窓枠、断熱材といった資材は、製造から5年以上経過している場合に再生資材として分類することができる。なお、資材はプロジェクト現場以外からも調達することができる。

オフィスBJXの壁面の半分は元の壁を生かしたものだ。ロペス氏は、複合現場打ちコンクリートや鋼製敷板といった、より環境に優しいとされる資材を取り入れた。

ステップ7

在来植物

認証プロセスの要件ではないものの、ロペス氏はオフィスBJKの植栽で在来植物を用いた。在来種は、環境や健康のみならず、生態学及び経済的観点からも多くの恩恵をもたらす。

在来植物は、肥料や草刈りを必要とせず、また芝生と比べ殺虫剤の使用も抑えられ、中には全く必要としないものもある。水もそれほど多く必要としないことから土壌の侵食予防にもつながり、野生動物の住処や食料にもなる。

認証:グッド、ベター、ベスト

世界の気温上昇を早急に抑える必要性が高まる中、グリーンビルディングを格付けする認証システムの必要性が高まっている。

数年前まで、EDGEなどの認証を受けるための条件は、エネルギー、水の利用、建材のエンボディド・エネルギーという3つのカテゴリーで20%削減という基本的な要件に限られていた。

しかし、気候変動に対応した解決策の導入が急がれ、政府や企業がより野心的な目標を設定する中で、より高い基準を設定した新たな認証が誕生している。

EDGEのゼロ・カーボン認証は、水の使用量と資材のエンボディド・エネルギーの20%削減を第一の目標としている。加えて、建築物内でのエネルギー消費量を最低40%削減するとともに、エネルギーの全排出量を、再生可能エネルギーあるいはカーボンオフセットで中立化しなければならない。

世界グリーンビルビルディング協会をはじめとする諸団体が、企業、都市、州、地域、組織といったネットゼロ推進アジェンダの署名者に対し、2030年までに所有する建築物、2050年までには全ての建築物について稼働時排出量を実質ゼロとすることを求めている。これは、2050年までに世界の気温上昇を1.5度に抑えるという目標には不可欠だ。

この目標を達成するには、2050年まで毎年、既存の全建築物の3~5%を改築していく必要がある。

IFCのシニア・グリーンビルディング・スペシャリストであるオムミド・サベリは「規模の大小に関わらず、ますます多くの事業体がゼロカーボンの達成を誓約しており、その実現に向け複数の大手エネルギー会社が我々に助言を求めた」と語る。「排出量のトレンドを変えるために残された時間はごく僅かだということが、(全ての人に)ますます明白になっている。」

ゼロカーボンのオフィスで働くロペス氏は、エネルギー効率の高いオフィス環境の整備に今後も継続的に取り組むと意気込む。まだ多くの人が改築プロセスに不信感があり、認証取得は不要な支出と考えているとロペス氏は指摘するが、これらは全て「将来への投資」だ。

「世界中で起きていることを無視することはできない」とロペス氏は語る。「大きなビルを所有していなくても、変化を起こすことができる。」

「排出量のトレンドを変えるために残された時間はごく僅かだということが、ますます明白になっている。」

オムミド・サベリ、IFC

インフォグラフィック:レイナ・ジャン

2021年11月発行